2023.02.02 2023.02.02

在宅勤務は残業代請求の対象になりますか?

はじめに

従来は,事業所で勤務をするのが一般的でしたが,近年では,インターネット通信を通じて事業所だけでなく自宅や勤務先以外のオフィスで業務を行うテレワークが広まりつつあります。
厚生労働所の情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインによれば,テレワークを在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務に分類しています。
以下では,テレワークのうち在宅勤務が残業代の対象になるかどうかについて解説していきます。

在宅勤務

在宅勤務とは事業所への通勤をしないで,自宅などで作業をし,業務を行うことをいいます。
在宅勤務のメリットとして通勤を要しないため事業所での勤務の場合に通勤を要する時間を有効に活用することができます。また,育児休業明けの労働者が短時間勤務等と組み合わせて勤務が可能になったり,保育所の近くで働くことが可能になる等から,仕事と家庭生活との両立に役立つといった特徴があります。
一方,在宅勤務のデメリットとして,長時間労働が発生する可能性があったり,自宅で作業をすることから仕事と私生活の区別が難しくなります。また,残業代との関係で,使用者が労働者の労働時間を把握し難いというデメリットもあります。

在宅勤務と残業代

一般に,労働者は残業を行えば使用者に対し残業代を請求することができますが,在宅勤務の場合も一般の労働者と同様に残業代を請求することができるのでしょうか?
労働者が在宅勤務を行う場合,使用者は労働者の勤務時間を把握することは困難という特徴があります。
そこで,事業所外労働のみなし労働時間制が利用される場合があります。
事業場外労働のみなし労働時間制については労働基準法38条の2により以下の通り規定されています。
労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間労働したものとみなされます(同条1項本文)。事業場外労働のみなし労働時間制の制度は,使用者の労働時間の把握,算定の義務を一部免除し,実労働時間にかかわらず,労働者が所定労働時間労働したものとすることにより,残業代を発生させない扱いを認めるものです。
この制度は,一定の要件すなわち,「労働時間を算定し難い従業員」という要件を満たす場合に限り適用されることになります。
在宅勤務の場合には,以下の要件をすべて満たす場合に「労働時間を算定し難い従業員」にあたり,事業外労働のみなし労働時間制が適用されます。
・在宅勤務者の業務が,私生活を営む自宅で行われること
・在宅勤務者が業務に利用するパソコンや携帯電話端末を常時,会社と通信可能な状態におくことが指示されておらず,在宅勤務者が通信を切断したり,これらの機器から離れることが認められていること
・在宅勤務者の業務が随時,会社の具体的な指示に基づいて行われるものでないこと
上の3つの要件を満たせば,在宅勤務についても事業場外労働のみなし労働時間制の適用がされます。逆に,上の3つの要件のいずれか一つでも満たさなければ,事業場外労働のみなし労働時間制の適用はされず,通常の労働者と同様に,所定労働時間を超えて労働した場合には在宅勤務であっても残業代を請求することができます。

また,事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であったとしても,その業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが通常必要になる場合には,その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます(同項ただし書)。この場合,業務の遂行に通常と必要される時間は,個別の事情に応じて客観的に判断・決定されることになりますが,実際にはその特定・認定は困難であるので,事業場の過半数代表との労使協定によりこれを定めることができるとされています(同条2項・3項,労働基準法施行規則24条の2第3項,4項)。その結果,通常必要とされる時間のうち,所定労働時間を超える部分については,使用者は労働者に対し残業代を支払う必要があります。
例えば,X社の在宅勤務者のAさんについて,1日の所定労働時間が8時間であるとき,Aさんの業務量から通常必要とされる時間が9時間である場合を考えます。この場合,1日9時間を通常必要とされる時間として労使協定で定めたうえ,1日1時間分の残業代をX社はAさんに支払う必要があります。

また,在宅勤務で事業場外労働のみなし労働時間制の適用があった場合であっても,休日労働や深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)を行った場合には,割増賃金を請求することができます。

おわりに

在宅勤務であったとしても事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない場合には,一般の労働者と同様に残業代を請求することができます。この制度が適用されていたとしても,業務量から通常必要とされる時間のうち所定労働時間を超える部分について一定の場合に残業代を請求することができます。また,休日労働や深夜労働については,事業場外労働のみなし労働時間制の適用の有無を問わず割増賃金を請求することができます。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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