2023.02.02 2023.02.02

営業職

営業職は、保険の外交員、不動産及び車のセールスマンなど、事業場外での活動が多いのが特徴です。このため、従業員の労働時間を正確に把握することが困難であることを理由に、固定残業代制や事業場外みなし労働時間制が多く採用されています。
さらに、近年、インターネットの普及により消費者自ら商品を比較検討した上でネット購入するのが通常という時代の流れの中で、商品に対していかに意味づけするかという営業テクニックが重要になってきています。そこで、労働者の営業能力の高さに着目して、歩合制、さらには年俸制を取り入れる会社も増えています。

固定残業代制

使用者が、労働者の現実の残業時間の有無、時間数に関係なく、一定時間数の残業代を毎月定額で支給するという方法が、固定残業代制です。
会社としては、毎月の人件費の予測に伴う負担の軽減、労働者としては、まったく残業を行わなくても定額の手当てが受けられるというメリットがあります。
このような固定残業代制を採用した上で、営業手当との名目で残業代の支払いに代えているという会社は多いのではいでしょうか?漫然と営業手当を残業代のつもりで支給しているだけでは、時間外手当としては認められません。有効な支払いと認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • ①営業手当が、それ以外の賃金と明確に区別されている
  • ②賃金の中に固定残業代が含まれること、その金額、時間を就業規則等に明示して、従業員に周知させる
  • ③実際の時間外労働割増金額が固定残業代を上回った場合には、差額を支払う
  • ④固定残業代などの手当てを除いた金額が最低賃金を下回らないようにする
  • ⑤固定残業代の設定額と残業実態が著しく乖離しない

(注意点)
よく勘違いされるのが、固定残業代制を導入しているのだから所定時間以上の残業をしたとしても定額の手当てしか支払わないという運用です。これは誤りです。要件の③にあるように、超過額は支払われなくてはなりません。

事業場外みなし労働時間制

営業職はいわゆる「外回り」が多く、使用者において、その労働時間を正確に把握するのは困難を伴います。そこで、従業員による事業場外での業務については、所定の時間労働したものとみなすという制度が、この事業場外みなし労働時間制です。実際の労働時間に関係なく、一律に始業時刻から終業時刻まで労働したものとみなすことになり、事業場外で勤務している間は、原則として残業の問題が生じないことになります。
事業場外みなし労働時間制を採用するためには、①会社の外で働いていること、そのため、使用者の具体的指揮監督が及ばず、②労働時間を算定し難いことが必要です。
スマートフォンや携帯電話、インターネット端末によって随時使用者から指示されて業務を行っている場合は、労働者の時間管理も可能であることから、「労働時間を算定し難い」とは言えません。これに対して、携帯電話等を持たせていても、取引先や突発的な事情を会社と連絡するためであって、会社からの随時指示に使うためではないときは、使用者が労働時間を管理しているとは言えず、「労働時間を算定し難い」に該当します。

(注意点)
1.みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、その超える部分については時間外労働となるため、時間外労働に対する割増賃金(残業代)が発生します。
2.この制度が通常の所定労働時間の算定の便宜をはかるものであることから、休日労働の賃金・割増賃金及び深夜労働の割増賃金については、このみなし労働時間制の適用がなく、これらの割増賃金を支払う必要があります。
このようなことから、事業場外みなし労働時間制を導入すれば、一切残業代を支払わなくていいとの認識は、誤りです。

歩合制

歩合制とは、成約件数や売上高等の営業成績に応じて賃金の額が決められる制度です。
労働者にとっては、成果を上げれば上げるだけ収入も増えるので、モチベーションが上がります。他方、会社にとっても、会社が儲かった時だけ多くの給料を払えばいいことから、経営の合理化を図ることができます。
歩合給には、完全出来高払い(フルコミッション)の場合と、給与の一部が歩合給の場合の2種類があります。完全歩合制は、雇用された労働者ではなく、独立した個人事業主との業務委託という形式をとれば可能です。
ここでは、雇用形態である給与の一部が歩合給の場合(固定給+歩合給)について説明します。

(注意点)
1.まず、タイムカードや出勤簿等で労働時間を把握し、労基法に従って給与を計算しなければならないのは、歩合制であっても同様です。
2.ここで得られた労働時間を基準に賃金を算出していくことになります。その際、売上等が極端に低くなった場合は、それに応じて、歩合給も極端に低くてもいいのではとも思われますが、労働基準法27条は、使用者は労働者に対して、労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならない旨を規定しています。一般的には、固定給と併せて通常賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるのが妥当と考えられています。
3.歩合給においては賃金の変動が非常に大きいことから、この保障給だけでなく、都道府県ごとの最低賃金を下回らないように確認しておく必要があります
4.法定労働時間を超えて労働した場合には、残業代が支払われなくてはならないのは、原則通りです。

年俸制

年俸制とは、賃金を1年単位で決定する賃金制度です。
労働者の仕事の成果、能力を1年単位で評価して翌年の給与に反映する仕組みであることから、成果主義の営業職に馴染むものです。使用者にとっては、給与の増減を柔軟に行うことができ、また、労働者にとっては、向こう1年、意に反して給与を減額されないというメリットがあります。
年棒制といっても、賃金の支払いを1年に1回というわけではありません。賞与がない場合は、年俸を12か月で除した月単位の賃金を労働者に支払う必要があります。

(注意点)
一般に「年俸制には残業代が出ない」とのイメージがありますが、年棒制は給与額の定め方に関する仕組みに過ぎず、残業時間に関するルールは当然及びます。
その際、月平均所定労働時間の設定に細心の注意が必要です。賃金規程等で当初見積もっていた月平均所定労働時間よりも実際の労働時間が少なかった場合には、所定労働時間を基準に算定すると、基礎賃金は下がることになります。その結果、労基法が求める最低基準額を下回るおそれがあります。これでは、時間外労働手当の一部支払いがあったとは認められません。
また、年俸制が採用される従業員は、通常、給与額の水準が高い場合が想定されるので、残業代が発生することになった場合、会社にとって当初予定していた年俸額を大幅に超えることになってしまいます。賃金負担を軽減したい使用者としては、できるだけ時間外労働をさせないよう配慮が必要です。

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