2023.02.02 2023.02.02

過労死の危険

はじめに

以前から日本では,長時間労働による精神的な疾患や自殺や過労死が社会問題となっています。では,過労死に関して日本の法制度はどのようになっているのでしょうか?
以下では,過労死をめぐる法制度について解説していきます。

過労死及び過労死等防止対策推進法

過労死について,日本で重大な社会問題になっていることから,平成26年11月1日,過労死等防止対策推進法が施行されました。
この法律は、近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的としています(同法1条)。
同法は,過労死等を業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害(同法2条)と定義しています。

同法は過労死等の防止のための対策として次の内容を基本理念としています(同法3条)。
・過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ,過労死等に関する調査研究を行うことにより過労死等に関する実体を明らかにし,その成果を過労死等の効果的な防止のための取組に生かすことができるようにするとともに,過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し,これに対する国民の関心と理解を深めること等により,行わなければならないこと
・国,地方公共団体,事業主その他の関係する者の相互の密接な連携の下に行わなければならないこと

また,同法は,過労死等の防止のための対策に関する大綱を定めなければならないこと,調査研究等・啓発・相談体制の整備等・民間団体の活動に対する支援等の過労死等の防止のための対策を立てるべきこと,過労死等防止対策推進協議会を置くべきことが規定されています。

過労死ライン

労働者の過労死,過労自殺等が問題とされる中,厚生労働省は,過労死ラインという健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を定めています。過労死ラインは労働災害認定で労働と過労死,過労自殺との因果関係の判定に用いられます。過労死ラインに当てはまっている場合には,特に注意する必要があります。
過労死ラインは次のいずれかの場合です。
・発症前2か月ないし6か月にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が行われた場合
・発症前1か月におおむね100時間を超える時間外労働が行われた場合
これらの過労死ラインは目安であり,過労死ラインを超えていないとしても労働災害と認定されることがあります。
さらに,発症前1か月ないし6か月にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,時間外労働と発症との関連性が強まるとされています。
自分の労働が,過労死ラインを超えていないとしても安心するのではなく働きすぎにより健康を害していないかどうか注意する必要があります。

過労死に関連する労働基準法の規定

労働基準法は,過労死の危険を回避できるように労働時間,休憩,休日について次の内容の規定をおいています。
労働時間については,週40時間,1日8時間が法定労働時間とされています(同法32条)。
休憩については,使用者は,労働者に対し,労働時間が6時間を超え8時間以下の場合,45分の休憩を,労働時間が8時間を超える場合は1時間の休憩を,労働時間の途中に与えなければなりません(同法34条1項)。そして,使用者は,労働者に対し,休憩時間を自由に利用させなければなりません(同条3項)。
休日については,使用者は,労働者に対し週に1回または4週間を通して4日以上の休日を付与しなければなりません(同法35条)。
労働基準法は上記のような労働時間,休憩,休日に関する規定を置いていますが,以下の場合に使用者は労働者に対し時間外労働・休日労働を行わせることができます。
・災害等の避けることのできない事由によって,臨時の必要がある場合に,労働基準監督署長の許可を得た場合(同法33条1項)
・公務のため臨時の必要がある場合(同法33条3項)
・使用者と事業場の労働者の過半数で組織する労働組合または過半数を代表する者とが書面による労使協定を締結し,これを労働基準監督署に届けた場合(同法36条1項,36協定)。
36協定について,何時間でも労働者を働かせることができるのではなく,上限時間が
厚生労働大臣の定めた上限基準に適合した者でなければなりません(同条2項,3項)。
このように,労働基準法上,厳格な法定労働時間の規定があり,36協定のような一定の場合に使用者は労働者に時間外労働・休日労働を行わせることができますが,上限基準もあるので,これに違反していた場合は,労働者自身又は弁護士に依頼して使用者に労働基準法に適合する環境を整備するよう申し入れることができます。労働基準法に適合した労働環境が整備されることで過労死の危険を回避することができます。

おわりに

時間外労働については,残業代を請求することができますが,長時間労働により過労死等,労働者の生命や健康を害する事態が生じないように注意する必要があります。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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