2023.02.02 2023.02.02

法定労働時間を一分でも超えたら残業代請求はできますか?

はじめに

労働者が残業を行った場合,正当な権利として使用者に対し残業代を請求することができます。
では,法定労働時間をどの程度超えたら,残業代請求ができるのでしょうか?
時給○○円の労働のように,単位が1時間ごとに決められている場合で1時間に満たない時間残業をした場合に,その分の残業代を請求できないのでしょうか?
以下では,残業代請求ができる時間単位について解説していきます。

残業代は一分でも超えたら請求できる

結論から言いますと,一分でも残業をした場合,残業代を請求することができます。その根拠は,労働基準法にあります。
労働基準法37条で,「使用者が,労働時間を延長し,又は休日に労働させた場合,その時間またはその日の労働については,通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払われなければならない」と規定していることから,残業した場合,割増賃金を請求できることが基礎づけられます。
また,同法24条で,「賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない」と規定していることから,労働者の労働の対価として使用者が労働者に賃金を使用しなければなりません。
そして,両条文を合わせると,残業も労働者の労務でありその対価である賃金も,使用者は全額支払わなければならないことが基礎づけられます。
したがって,労働者は一分でも残業をしたら,使用者に対し残業代を請求することができます。
一般的に,労働基準法は労働者の権利保護の法律でありこれに違反する行為をした使用者は労働基準監督署から是正勧告を受け,これに従わない場合には,残業代の不払いの場合には,使用者は,6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の刑罰に処せられることになります。

1か月単位での30分単位や1円単位の四捨五入は適法

原則として,残業代は法定労働時間を一分でも超えれば請求できますが,実際に労働者それぞれの残業代請求に対し,使用者側がそれぞれ一分単位で残業代を計算していかなければならないとすると非常に煩雑です。
そのため,行政通達により以下の場合に,四捨五入をすることは適法となっています。
・時間外労働及び,休日労働,深夜労働の1か月単位の合計について,1時間未満の端数がある場合は,30分未満の端数を切り捨て,30分以上を時間に切り上げること
・1時間当たりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数がある場合は,50銭未満の端数を切り捨て,50銭以上を1円に切り上げること
・時間外労働および休日労働,深夜労働の1か月単位の割増賃金の総額に1円未満の端数がある場合は,50銭未満の端数を切り捨て,50銭以上を1円に切り上げること
例えば,X社で勤務しているAさんが,ある月に10時間20分の残業をした場合,X社はAさんの残業時間を10時間と算定することは適法ということになります。
この行政通達は,残業代の算定の煩雑にならないように,1か月単位の残業時間のうち,1時間未満の端数がある場合には30分未満は切り捨て30分以上は切り上げて計算するというものであり,また,50銭未満は切り捨て50銭以上は切り上げる取り扱いであり,労働者にとって不利にも有利にもなります。
では,この行政通達とは異なる方法で残業時間の切り上げ,切り捨ては可能でしょうか?

労働者に有利な残業時間の切り上げは適法

まず,残業時間に1時間未満の端数がある場合,すべて切り捨てにする取り扱いは無効です。
例えば,X社で勤務しているAさんが,ある日50分残業をした場合に,X社が1時間に満たないことを理由にAさんの残業時間を0分とするのは無効です。
なぜなら,労働基準法は,労働者保護という点から,労働者の労務条件の最低基準を定めたものであるからであり,最低基準に満たない場合は無効となります。通常1分から残業代を請求できるはずであるのに,端数があるという理由で使用者が一方的に端数を切り捨てるのは最低基準を定めた労働基準法に反する取扱いとなります。
一方で,最低基準を満たすものであれば適法であるということから,残業時間に1時間未満の端数がある場合,すべて切り上げるという取り扱いは労働者に有利であり適法となります。
例えば,上の例で,X社がAさんの残業が1時間に満たない場合でも,それを切り上げてAさんの残業時間を1時間とするのは適法ということになります。

使用者が一分単位の残業代支払いに応じない場合

労働者が一分単位の残業代の支払いを請求したとして,使用者がこれに応じない場合は,労働基準監督署に相談し調査を依頼する方法が考えられます。労働基準監督署の利用には費用が掛かりませんが,前提として,使用者に書面での示談交渉をしたが適切な回答がされないことを要するので,すぐに残業代の支払いが受けられないというリスクもあります。また,労働審判の申立てや訴訟を提起して,裁判により残業代の支払いを求める方法もありますが,労働者自身が単独で行うには労力を要します。
一方,労働者自身が残業代の請求を行うのではなく法律の専門家である弁護士に残業代の支払いを依頼する方法も考えられます。これには,費用が掛かりますが,弁護士からの請求であれば使用者側が支払いに応じてくれる可能性があり,労働審判や訴訟を弁護士が代わって行ってくれるというメリットもあります。

おわりに

残業代は,法定労働時間を一分でも超えれば原則として請求できますが,使用者側が一か月単位による残業代の計算をすることは可能です。
使用者が,残業代の支払いに応じない場合には,労働者自らが労働基準監督署に相談したり,労働審判や訴訟を提起する方法により残業代の請求をする方法があります。また,法律の専門家である弁護士に依頼することで労働者に代わって残業代を請求する方法もあります。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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